今年9月1日に公開されたばかりの研究企業Physical Superintelligence(PSI)が、量子情報理論の公開問題5件について成果を発表した。論文とLean形式化証明、検証コードを公開し、外部の検証に任せている。創業から2ヶ月足らずでの発表である。

27年物の公開問題に挑む
舞台になったのは、Open Quantum Problems(OQP)と呼ばれる問題目録だ。1999年にドイツの物理学者ラインハルト・ヴェルナー氏が設け、量子情報学界が長く解けずにきた課題を集める。今回の5件は絡み合いの蒸留不可能性、量子場理論、高次元通信、チャネル容量、量子因果律にまたがる。
| 問題 | 分野 |
|---|---|
| OQP 2 | 負の偏置換状態の絡み合い不可蒸留性 |
| OQP 12 | 真空の絡み合いとベル不等式 |
| OQP 27 | CGLMPベル不等式の最適測定 |
| OQP 38 | PPT平方予想と絡み合い破壊 |
| OQP 43 | 量子因果過程の純化可能性 |
5件のうち3件は2000年代初頭から目録に載っていた。PSIの公式サイトは宣言した野望に比べると簡素で、今回の成果が同社の最初のアウトプットである。
Emmyが分けた「生成」と「検証」
PSIの研究単位は自主研究タスク(Autonomous Campaign)と呼ばれ、問題の定義から仮説、検証、実験、実装までを連続的に走らせる。中核のAI研究システムEmmy(数学者エミー・ノーターに由来)の考え方は単純で、生成と検証を分離する。まず大規模言語モデルに難問を微小で検証可能な数学の部分仮説へ分解させ、それをLean形式化証明器と記号計算エンジン、高精度の検証コードに通す。エラーが出た仮説はその場で廃棄され、通った経路だけが枝を伸ばす。
最終的にLeanのコードがコンパイルを通過すれば、定理は数学的論理として機械的に検証済みになる。検証の記録は次世代のAI物理学者を訓練する報酬信号にも使われ、発見の工程そのものを循環させる設計だ。PSIはこれを「天才から規模へ」と標語化する。基礎科学の飛躍が個人の閃きに頼る時代の終わりを宣言するもので、当然ながら検証が外部の研究者の仕事として残る。
収益源はAIデータセンター
基礎研究だけの会社ではない。最初の商業対象として挙げるのはAIデータセンターの最適化である。巨大な計算クラスタは電力、冷却、ネットワーク、計算資源が相互に絡む巨大な物理系で、Emmyの物理モデリングと相性が良い。電力と放熱と算力を一つの方程式として解き、エネルギー効率の上限を探るという。
ほかに珍しい案件として、2029年までに恒星間探査機Fermi Explorerを打ち上げる計画を公式に掲げている。太陽系を出て4.2光年先のケンタウルス座アルファ星を目指す旅は、最適化された軽量設計でも8万年かかる見込みだ。商業と純粋研究の両輪を早くから並べた構成は、資金の持ち方を含めて今後の注視点になる。
よくある質問
Q. PSIとはどんな会社か。
Physical Superintelligenceの略で、2026年9月1日に公開されたばかりの研究企業である。シードラウンドで5,800万米ドルを調達し、主導したのはビル・ゲイツ氏創設のBreakthrough Energy Ventures。創業者のアレックス・ウィスナー=グロス氏はMITで物理・電気工学・数学の3専攻を同時に修め、2007年にハーバード大学で物理学の博士号を取得した人物である。
Q. OQPとは何か。
Open Quantum Problemsの略で、ドイツの物理学者ラインハルト・ヴェルナー氏が1999年に設けた量子情報理論の公開問題目録である。27年の歴史があり、学界が長く手を焼いてきた課題を集める。今回の5件のうちOQP 2、OQP 12、OQP 27の3問は2000年代初頭に収録された。
編集部の見解
生成と検証の分離は、数学の形式化分野で数年かけて育った手法を物理学に持ち込んだ形であり、真新しい発想ではない。ただ、5件の成果が外部検証に耐えるかどうかはLeanコードの公開で決まるので、数週間内に専門家の評価が集まるはずだ。AIによる研究支援が「仮説の量産」から「検証済み定理の供給」へ進むかどうか、最初の実地試験として意味がある。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「物理学もAIに支配されるのか、27年越しの量子公開問題5件が突破」(寄稿:量子位、2026年10月28日)
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