「AIの社会への最悪の影響が宿題の採点だけなら、むしろ嬉しいのだが」。カリフォルニア大学バークレー校の数学教授Richard Borcherds氏はそう述べ、学生の宿題を提出ベースで採点する方式に変えたことを明かした。1998年のフィールズ賞受賞者が、自らの授業で答えの正否を問わない選択をしたのである。

答えの正否で採点できなくなった
理由は実務的だ。AIで宿題を完成させる学生が相当数に達し、答案がAI由来かどうか判別できない。答えの正否を評価基準に保つ限り、AIを使う学生に強い動機を与え、自力で解く学生を損させる。助教を雇って一問一答の正誤を確認する経費も、境界線が消えた今は意味を失った。提出したこと自体に点を与える方式は「良い方法ではないが、代案が見つからない」と本人が認めるもので、提出と習得の間に隙間が残る。
9月のミレニアム問題解答が背景
この判断の裏には、業界の加速を意識した事情がある。今年9月、OpenAIは内部のAIシステムがナビエ–ストークス方程式の解の存在性と滑らかさについて解答を出したと発表した。ミレニアム懸賞問題の一つである。約1万のAIエージェントを並行動作させ88時間で結果を得て、Lean形式化検証を通過した。研究者Noam Brown氏によれば計算コストは「数百万米ドル」で、賞金100万米ドルを上回る。氏は「一年後には月20米ドルのChatGPT購読者が同レベルの問題を解ける」という予測も示した。
| 立場 | 評価の軸 | 主な主張 |
|---|---|---|
| Borcherds氏(教授) | 趨勢 | 88時間でミレニアム問題級の成果。数年以内に人間の数学者ができることをAIが超える可能性 |
| 同校の博士課程の学生 | 現在の道具の手触り | 研究支援としてのAIは「愚かで非効率」。未解決問題の先取りは数学界に恐慌を生む |
表の対比が示す通り、悲観と現場感覚は同じ学部の中で併存する。ただしBorcherds氏は道具の拒否者ではない。抽象代数の大学院授業なら自分よりAIの方が教員に向くと述べ、複雑な質問への回答は「どの人間の数学者から得たものより良い」とも語る。
大学の「検出」路線は行き詰まる
バークレー校の対応は権限の委譲だった。シラバスにAI利用の規範を書くことを求めつつ、運用は各教員に任せる。TurnitinやRumiなどの検出ツールも試したが、精度が足りず全校導入には至らなかった。2026年の国際調査では大学生のAI利用率が88%に達しており、答えの正否を評価の中心に据える授業設計そのものが揺れている。宿題が「自力で解けるか」を測る場でなくなったとき、大学は何を測るのか。良い問いを立てる力か、AIの出力を見抜く目か、答えはまだ出ていない。
よくある質問
Q. なぜ提出するだけで点数を与えるのか。
答えの正否で採点する限り、AIを使う学生に大きな動機を与え、自力で解いた誠実な学生を罰することになると本人が述べている。AIが生成した答案と人間の答案の境界がほぼ消え、助教に正誤を判定させるコストも意味を失ったため、現時点でより良い方法が見つからないのが実情である。
Q. 数学研究者の将来はどう評価されているのか。
Borcherds氏自身、数年前までは数学がAIの影響を受けにくい職業だと考えていたが、速度を前に判断を保留している。「どう助言すべきか分からない」と述べ、同じ質問をChatGPTに投げたところ、ChatGPTも未来を知らないと答えたという。
編集部の見解
日本の大学でもレポートや課題のAI利用は実質的に自由化が進んでいる。教える側の工夫としては、解答の再生ではなく問いの設計やAI出力の検証を評価対象に変える方向が現実的だろう。専門家の価値が「正解を出す」から「正解を疑える」へ移る過渡期において、Borcherds氏の坦白は日本の教育現場が避けて通れない前提を示している。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「学生はAIで高得点、宿題の採点はもう無理,フィールズ賞学者が「提出すれば満点」と宣言」(寄稿:CSDN、2026年10月28日)
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