2026年5月、中国の百奥賽図(Biocytogen)は「RenSuper Workstation」を公開しました。標的の種類やエピトープの特徴、機能要件を入れると、候補抗体の配列とメタデータが出てきます。棚に並ぶ配列は100万本超。すべて生きたマウスの免疫応答に由来し、結合・親和性・特異性・機能の各試験を通ったものです。生成ではなく、在庫です。

生成された配列と、試験を通った配列
AI創薬の主流の語り方は、アルゴリズムが分子を「生成する」というものです。数億の候補を計算し、その一部を実験に回す。計算が出すのは確率で、確率は事実ではありません。
「結合しそうだ」とは言えても、結合しなかったときにどうするかは教えてくれません。臨床に数億ドルを投じる段階で、この差が効きます。
同社の数字は次のとおりです。
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 売上高 | 13.79億元 | 2025年通期 |
| モデル動物販売 | 6.22億元(前年比+59.86%) | 2025年通期 |
| 売上高 | 9.4億元(前年同期比+51.6%) | 2026年上半期 |
| 粗利率 | 76.2% | 2026年上半期 |
| 抗体ライセンス契約 | 455件超(うち26年上期105件) | 2026年6月末 |
| 標的ヒト化マウス | 約2,300種 | 2026年 |
17年分の在庫はどう積まれたか
創業者の沈月雷氏は、武漢大学の免疫学の講義をきっかけに、遺伝子改変マウスを扱う道に入りました。
2009年の設立当初は、研究機関向けにノックアウトマウスを作る受託事業でした。1件ずつ受注し、遺伝子を組み換えて納品する仕事です。
転機は2015年。中国で薬事改革が始まり、抗体医薬の需要が噴き出します。同社は受託から「受託+製品」へ舵を切り、モデル動物の標準品化と全人抗体マウス「RenMice」の開発を同時に始めました。
2019年、RenMiceが技術的な山を越えます。マウスの抗体の重鎖・軽鎖可変領域の遺伝子を、巨大な染色体断片ごとヒトの配列に置き換える。マウスが作る抗体が、そのまま全人抗体になります。この仕組みで1,000余りの標的を免疫し、100万本超の配列を蓄積しました。
抗体は入口で、売上はマウスで立つ
配列を1本選んだ顧客の次の工程は、ほぼ決まっています。in vivoでの薬効評価です。その抗体を評価するのに最も都合がよいのは、同じ標的で作ったヒト化マウスです。
同社は約2,300種の標的ヒト化マウスを持ち、棚の標的と対応しています。抗体とマウスを別の会社から買うと、検体の再送や実験の再設計が発生します。同じ会社で揃えれば、その手間が消えます。
2026年上半期、モデル動物販売は前年同期比62.44%増、前臨床の薬理薬効評価は56.97%増えました。抗体ライセンスの契約は2024年末の約200件から2026年6月末に455件超へ増え、2026年上半期だけで105件を上乗せしています。年初に置いた通期計画を、半年で超えた計算です。
IDEAYAに導出した二重特異性ADCでは、最初の患者投与が完了した時点で500万ドルのマイルストーンを認識しました。
日本の前臨床の段取りはどう変わるか
日本の創薬企業は、前臨床を国内CROに分割して発注する慣行があります。抗体探索、ヒト化マウスの作製、薬効評価が別々の契約になり、その間で検体とデータが行き来します。
配列ライブラリとマウスが同じ棚にある状態は、この分割を減らせます。期間にして1〜2年の短縮を主張していますが、これは同社の説明で、標的によって幅があります。
発注側が確認すべきは、配列の由来です。どの標的を、何匹のマウスで免疫し、どの試験を通ったのか。実験ノートの粒度で聞けるかどうかが、後工程のリスクを左右します。
よくある質問
Q. 100万本の配列は誰でも使えますか。
A. ライセンス契約が必要で、契約件数は455件超です。公開されているのは検索の窓口で、配列そのものは契約に応じて開示されます。
Q. AIが生成した配列と何が違うのですか。
A. 生成された配列は候補、こちらは試験を通った配列です。前臨床の後半や臨床に入る段階で、やり直しの確率が変わります。
Q. 日本企業にとっての利点は何ですか。
A. 抗体探索の初期工程を外部に出せます。標的が多く、社内の免疫実験の人手が足りない企業ほど効果があります。
編集部の見解
この会社の価値は、AIを使っているかどうかではありません。AIが出力する確率に対して、実測の証拠をどれだけ積んだかです。モデルの性能が上がるほど、学習に使える「本当に起きたデータ」の希少性は上がります。
日本企業が同種の資産を作ろうとすれば、17年分の免疫と検証が必要になります。現実的なのは、自社の標的について外部ライブラリを引き、自社データで差分を確かめる形です。すべてを内製する必要はありません。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「世界中がAIで分子を作るなか、彼は17年間マウスを飼い続けた」(寄稿:医曜、2026年10月20日)
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