詐欺師の電話をAIが受け持つ、豪Apateが占めた累計17年分の時間

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UXリサーチャー/AIツール評価
詐欺師の電話をAIが受け持つ、豪Apateが占めた累計17年分の時間

豪州のスタートアップApateは、詐欺の電話をAIが受け取る事業を運営している。35万体超のAIエージェントが架空の高齢者を演じ、詐欺師の時間を累計17年分消費した。250万回超の対話から、振込先口座や暗号資産ウォレットなどの情報25万件以上を抽出したという。

詐欺師の電話をAIが受け持つ、豪Apateが占めた累計17年分の時間のポイント

仕組み:詐欺師の資源を吸い取る

発想は単純だ。詐欺師がAIに費やす時間が増えるほど、実際の被害者に割ける時間が減る。エージェントは怪しい電話に高齢者として応じ、指示どおり個人情報を入力し、リンクを開き、遠隔操作ソフトの導入寸前まで進む。そこから先は「ブラウザが動かない」「回線が遅い」「孫を迎えに行く」といった理由で作業を引き延ばし、詐欺師が自ら切るまで続ける。

電話に限らない。投資グループやSNSの詐欺グループに潜入し、WhatsAppやTelegramで日々数十万件の通話とチャットを処理しているという。また、誰も取らない「おとり番号」をネット上に撒いて、詐欺師に架電させる運用も併用する。

指標 公表値
処理した対話 250万回超
詐欺師の占有時間(合計) 17年分
抽出した情報 25万件超(口座、ウォレット等)
TPGからの転送電話 累計59万通近く(試験期間は28万通超)
詐欺流量の識別精度 約98%(同社公表)
回避できた損失の推計 約1,300万米ドル

発端は1本の44分の電話

創業者のDali Kaafar氏はマコーリー大学の教授で、数年前、家族のピクニック中に受けた詐欺電話を44分間相手にしたことが発端だった。2024年に会社を設立し、社名はギリシャ神話の欺瞞の女神に由来する。通信大手TPGのシステムが怪しい着信を検知すると、遮断せずApateのAIへ転送する仕組みが組まれている。

金融機関との連携も進む。オーストラリア連邦銀行(CBA)は2024年に試験を始め、2025年6月に拡大を発表した。CBAが公表した数字では、顧客の詐欺被害はピークから76%減った。別の金融機関では、この仕組みを使って22の詐欺グループの活動を封じたとしている。

なぜ金融機関が金を出すのか

追い風は規制だ。2025年2月に成立した詐欺防止枠組み(SPF)は、銀行・通信事業者・デジタルプラットフォームに報告、遮断、対応の「合理的措置」を義務づけ、怠れば最高5,000万豪ドルの制裁金が科される。被害者には機関の違反時の損害賠償請求の道も開かれた。銀行にとって、この手の支出は損害賠償と制裁金の見込み額と比較される費用になる。

同社の分析はさらに一段踏み込む。電話番号や演技は詐欺師が簡単に替えられるが、「金を受け取る口座」は開設と本人確認が要り、リスク管理に凍結されれば再調達が要る。今年7月、Apateのエージェントはインドの実名銀行口座を募る闇市場を見つけた。仲介の歩合は詐欺資金の流れに応じて決まり、USDTで精算される。銀行はAIに「口座番号を持ってくる」任務を与えることで、この最後の接点に直接触れる。

よくある質問

Q. AIは最終的にお金を払わされるのか。
払わない。振込直前の段階まで誘導したところで、操作が分からない、回線が遅い、孫の迎えがあるなどの理由を並べて作業を先延ばしにし、最後は詐欺師自身に切断させる。得られた成果は時間の消費と、口座や暗号資産ウォレットといった情報である。

Q. ビジネスモデルは成り立つのか。
金融機関・通信事業者・政府への詐欺情報の提供で収益を上げている。2025年2月に豪州で成立した詐欺防止枠組み(SPF)は、合理的対策を怠った銀行や通信に最高5,000万豪ドルの制裁を課す。罰則リスクが受注の後押しになっている。

編集部の見解

詐欺対策は「受け取って遮断する」防御から、「受け取って消費する」攻撃へ移りつつある。日本の特殊詐欺対策でも、通信事業者と銀行の連携が進めば、同じ発想を適用する土台はある。課題はAIが被害者を演じることへの倫理設計で、お金を取らせない線引きを明文化したうえでの運用が前提になるだろう。

my-best.ai 編集部

出典:36Kr「攻撃こそ最良の防御、詐欺の世界にAIの『厳しい父親』が現れる」(寄稿:酷玩実験室、2026年10月28日)

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