Agentの長い会話には、似た言葉がほとんど無いのに同時に思い出す必要がある情報が現れます。香港科技大学(広州)・吉林大学・香港中文大学の研究チームが提案したHeLa-Memは、記憶ノード同士を「一緒に使われた回数」で繋ぐ方式で、この空白を埋めます。LoCoMoベンチの4種の質問でF1は40.14〜51.89、検索に使う文脈は平均1,010トークンで、論文はACL 2026 Mainに採択されました。

なぜ「似ている記憶」だけでは足りないのか
「最初にあの人に出会ったのはどこ?」と聞かれたとき、答えには職業に影響を与えた先生の記憶と、出会った場所の記憶の両方が要ります。前者は職業という語で引けますが、後者は同じ語を持たない。従来のベクトル検索は語の近さで引くため、「誰か」は分かっても「どこで」が欠けます。HeLa-Memは、人間の記憶が語の類似ではなく経験の結び付きで動く点に目を付けました。
仕組みは3つの部品でできている
第1に、会話の各回を原文・時間・話者・キーワード・ベクトル付きの記憶ノードとして保存します。同じ検索で複数のノードが一緒に現れると、その辺の重みが強まり、長く使われない弱い結び付きは減衰します。第2に、定期的に網を見直す反芻エージェントが、結び付きの濃い部分から再利用できる知識(利用者の好みや絶対時間を含む事実)を意味記憶へ蒸留し、孤立して古いノードを忘却候補にします。第3に、検索は2経路です。語の近さ・キーワード・時間で直接引く経路と、高得点ノードから結び付きの辺を伝って広がる経路。両者と意味記憶を合わせて回答の文脈にします。
| LoCoMoでの比較 | 検索文脈(平均) |
|---|---|
| HeLa-Mem | 1,010トークン |
| MemoryOS | 約2,000トークン |
| 全会話をそのまま入力する基準 | 約16,910トークン |
GPT-4o-mini基盤でのF1は、多段推論40.14、時間推論47.29、開放域29.70、単一ホップ51.89。3つの基盤モデル(GPT-4o-mini、GPT-4o、Qwen2.5-3B)を通じた平均順位は1.25でした。文脈が短くて済む分、応答の費用も抑えられます。
日本の実務に接続すると
社内チャットのログを知識として使う取り組みは、語の一致で失敗しやすい。部署名が変わった、呼び方が違うだけでも検索は外れます。HeLa-Memの方式は、過去に一緒に参照された文書同士を繋げておく発想なので、社内検索の精度改善にも同じ考え方が使えます。弱点は明示されていて、履歴が少ない初期は結び付きが育たないこと。導入初期の効果判定は慎重にする必要があります。
よくある質問
Q. HeLa-Memの中心アイデアは何ですか。
A. 会話の1回ごとを記憶ノードとし、同じ検索で一緒に呼び出されたノード同士の結び付きを強める方式です。ヘブ則の考え方を記憶グラフに適用しています。
Q. 性能はどうですか。
A. LoCoMoベンチで、GPT-4o-miniを基盤に多段推論・時間・開放域・単一ホップの4種のF1が40.14、47.29、29.70、51.89。検索文脈は平均1,010トークンでした。
Q. 弱点はありますか。
A. 結び付きの重みは対話の蓄積で育つため、履歴が少ない初期は効果が出にくい冷え込み期間があります。精製される意味記憶の質も基盤モデルに依存します。
編集部の見解
長期記憶の研究は「どれだけ保存するか」の競争から「保存したもの同士をどう結ぶか」の段階へ移りつつあります。HeLa-Memの示した数字は、文脈を16,910トークン渡すより、1,010トークンを正しく選ぶほうが良い答えになる、という事実です。
コストの面でも同じ結論が出ます。入力トークンは課金の主体ですから、検索の質を上げる工数は、長い文脈を渡す予算の代替になります。記憶の設計は、モデル選定より先に決めるべき項目です。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「香港科技大学チーム──Agentに長い会話で「失われた記憶」を取り戻させる」(寄稿:学術頭条、2026年10月20日)
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