会話をまたぐと、同じ失敗を繰り返す。付き合いが長くなるほど邪魔になります。中国の記憶張量(MemTensor)が公開したMemT 1.0は、記憶をモデルの外に置かず、内部の状態として持たせました。11項目の記憶ベンチマークでFlashが50.6、Nanoが47.0。128Kトークンの履歴で推論は約1.86倍速く、状態の保存量はKVキャッシュの約66分の1です。

外付けの記憶は、何が足りないのか
チャット履歴を保存して検索する方式は、事実の保管と取り出しには向いています。苦手なのは更新と優先順位です。
技術報告には、500ターン・6.6万トークンに及ぶ試験が出ています。展示会の日程を一度伝え、その後に日曜へ変更し、採用されなかった月曜案も会話の中で触れた。以後、展示会の話は一切出ません。この状態で質問すると、MemT 1.0は元の日程と変更後の日程を区別し、会場・料金・連絡先が変わっていないことまで答えました。
検索型では、古い記述と新しい記述が同じ重みで並びます。どちらが有効かを決めるのは、モデルではなく検索の設計です。
仕組みは「本体+状態」
アーキテクチャは2層です。汎用能力を持つ基盤ネットワークと、対話ごとに変化する動的記憶状態。状態はユーザーやタスクごとに独立し、毎ターンの生成計算に直接入ります。
更新はトークン単位で、対話の終わりに走ります。何を残し、何を書き換えるかは、学習で獲得したゲート機構が決めます。
容量は固定です。やりくりはMixture-of-Storage(MoS)が担い、複数の記憶専門家が保存領域を分けます。
| 条件 | 11項目の平均 | 比較 |
|---|---|---|
| MemT-1.0-Flash | 50.6 | 最強のパラメトリック記憶ベースライン比 +12.5 |
| MemT-1.0-Nano | 47.0 | 同 +8.9 |
| Nano(後学習なし) | 36.3 | 後学習の寄与を示す |
| Nano(記憶専門家を4に拡張) | 最大 +2.7 | MoS拡張の効果 |
学習データは340億トークン。200億で継続事前学習を行い、過去の断片から未来を予測させます。残る140億で後学習を行い、教師モデルが記憶の抽出を採点します。
経験は次のタスクに使えるのか
記憶の価値は、過去の失敗が次の行動を変えるかで決まります。SWE-bench Verifiedの500タスクで、事前に経験を書き込んだNanoの成功率は66.07%から69.33%へ、3回連続成功は54.00%から61.60%へ上がりました。同じ経験を文章として文脈に貼った場合(68.87%、61.60%)と同等です。
実戦形式では、まず何も渡さずに解かせ、エラーや空の応答、3回連続の空回りを検知した時点で経験を書き込みます。成功率は69.73%、3回連続成功は62.80%で、文章で渡す方式(69.13%、61.80%)を上回りました。
9言語・300タスクのSWE-bench Multilingualでも、60.00%から63.56%へ、45.33%から55.33%へ上がっています。学習に使ったのは、経験なしでは失敗し、経験を足すと通った4.2万件のサンプルです。
コストと、日本の開発現場
履歴64Kトークンで約1.20倍、128Kで約1.86倍、256Kで約3.99倍の速度になります。会話が長くなるほど差が開く設計です。
日本の開発組織で効くのは、属人化したトラブルシュートの移し替えです。障害対応の手順が特定の人の頭にある状態を、モデルの状態に置ければ、異動や退職のたびに失われる知識を減らせます。
ただし、誰の記憶かを分ける設計は必須です。顧客ごと、案件ごとに状態を分離しないと、情報の混線と監査の問題が起きます。
よくある質問
Q. 外付けのRAGと何が違いますか。
A. 検索ではなく状態です。保管した文章を引くのではなく、モデルが対話を通じて書き換える状態を持ち、次の生成に直接使います。
Q. 既存モデルに後から足せますか。
A. 今回の結果はアーキテクチャと学習の組み合わせによるものです。後学習を外すとNanoの平均は36.3まで落ちます。
Q. 日本語でも同じ効果が出ますか。
A. 公開されている評価は英語が中心です。日本語の長い対話に対する効果は、別途検証が必要です。
編集部の見解
モデルの性能競争は、パラメータ数とベンチマークの順位から、時間軸の競争に移りつつあります。同じモデルを使い続けたときに、どれだけ賢くなるか。MemT 1.0はその軸を、記憶の置き場所という設計問題として提示しました。
日本企業が導入を検討するなら、最初に決めるのはモデルの選定ではなく、記憶の境界です。顧客単位、案件単位、個人単位のどこで切るか。ここを曖昧にしたまま長期運用に入ると、後から分離できなくなります。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「メモリネイティブに賭ける——MemT 1.0が切り開くAI後半戦」(寄稿:APPSO、2026年10月20日)
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