マイクロソフトのサティア・ナデラ、グーグルのスンダー・ピチャイ、IBMのアルヴィンド・クリシュナ。米テック大手の経営を握るのは、50〜60代のインド系1世です。一方、数十億ドル級の資産を持つ創業者には、30〜40代の華裔2世が並びます。同じ「移民の成功」に見えて、報酬の形がまったく違います。

何が違うのか、数字で並べる
| インド系1世のCEO | 華裔2世の創業者 | |
|---|---|---|
| 典型年齢 | 50〜60代 | 30代〜40代前半 |
| 主な報酬 | 給与+株式報酬(20〜30年の積み上げ) | 創業者持分(上場で数十億ドル) |
| リスク許容 | 低い(在留資格が最優先) | 高い(失敗しても戻れる) |
| 役割 | 既存組織の運営 | 新しい仕組みの設計 |
| 到達点 | 取締役会に選ばれる | 自分で取締役会を作る |
報酬の形が違えば、伸び方も変わります。給与と株式報酬は複利で積み上がる線形の成長です。創業者持分は、上場の瞬間に桁が変わります。
「負けられる」ことが最大の資本になる
1世にとって、起業は贅沢でした。ビザの抽選、グリーンカードの順番待ち、職場の政治。生活の基盤が不安定な状態で、数年の無収入を選ぶ人は多くありません。大企業に入り、コードを書き、管理職に上がる。当時としては合理的な判断です。
2世は違います。親が在留資格と資産をすでに解決している。地下室に住み、カップ麺を食べながら試せる。失敗しても生活が壊れないという条件が、創業の前提になります。
アレクサンドル・ワンは19歳で大学を中退し、Scale AIを立ち上げました。AIモデルの学習データという、地味だが不可欠な工程を事業にした例です。ドアダッシュのトニー・シュウはスタンフォード大学院の在学中に創業し、米国のフードデリバリーで最大手になりました。
二人に共通するのは、技術の層と事業の層を同時に触っている点です。研究だけでは会社は育たず、事業だけでは差がつきません。
出世の階段と、株式の階段
大企業のCEOになるには、取締役会に認められる必要があります。複数の巨頭で実績を積み、20〜30年かけて選ばれる。途中で降りる選択肢は少なく、社内政治の作法も覚えなければなりません。
創業者は自分で会社を作り、取締役会を設計し、ベンチャーキャピタルから資金を取ります。上場した瞬間に持分が数十億ドルになる。この差は能力の差ではなく、時間を売るか資産を作るかの差です。
VCの選好もこの構造を加速させました。若く、技術の層がわかり、撤退する場所がない創業者を好む。Sand Hill Roadに持ち込まれる計画の多くは、この条件を満たす人たちのものです。
AIが分断をさらに広げている
生成AIの登場で、創業の初期コストは下がりました。計算資源は借りられ、モデルはAPIで呼べます。一方で、モデルの内部構造や計算資源の調達を理解している人材の価値は上がっています。
OpenAIの主要チームでは中国系の科学者が3〜5割を占めるという指摘があります。DeepSeekのように少人数・低予算で成果を出す例も出てきました。国籍や世代ではなく、どの層を触れるかが分岐点になっています。
日本の組織に置き換えると
移民の歴史が違うので、この構図をそのまま日本に持ち込むことはできません。ただし「安定した管理職」と「持分を持つ創業者」の報酬差は、日本でも開いています。
大企業がAI人材を採るとき、用意できるのが管理職のポストだけなら、起業志向の人は社外に出ます。カーブアウト、分社化、社内ベンチャーに持分を付ける。制度として用意できるかどうかが、流出を左右します。
よくある質問
Q. インド系にCEOが多いのは英語力のためですか。
A. 英語は前提条件にすぎません。決定的なのは、20〜30年在籍して取締役会から信任を得た実績です。1世は起業の失敗コストが高く、社内昇進の経路を選ばざるを得ませんでした。
Q. 華裔の創業者は技術だけで成功したのですか。
A. 技術は入口です。Scale AIはデータのラベリングという工程を事業化しました。ドアダッシュは物流と店舗のオペレーションを設計しています。技術と事業設計の両方が要ります。
Q. 日本企業に同じことが起きますか。
A. 報酬の形の差はすでに起きています。持分を渡さずに創業的な仕事を求めるのは、今後さらに難しくなります。
編集部の見解
この20年で変わったのは、移民の質ではなく報酬の設計です。執行役員になる経路は今も安定していますが、資産形成の速度は創業に大きく劣ります。
日本の大企業がAI分野で人を集められない理由を、給与の水準だけに求めるのは半分です。事業の持分を渡せるかどうか。渡せないなら、社内で新規事業を立ち上げた人に何を報いるのかを先に決める必要があります。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「シリコンバレーで折り畳まれる権力の世代——インド系幹部の評価額10億ドル、中国系新世代の創業は100億ドルへ」(寄稿:Tech商業、2026年10月20日)
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