「人新世の最初と最後の日々における、若手研究者への助言」。Anthropicの科学者、Jascha Sohl-Dickstein氏が2026年6月にスタンフォード大学で行った講演が、Xで再び拡散しています。過去10年で最大モデルの訓練計算量は約1,000万倍になりました。その前提に立つと、博士号、ポスドク、テニュアという長い階段は、もはや自動的な安全策ではない、というのが氏の主張です。

指数関数の中にいる
Sohl-Dickstein氏は拡散モデルの初期研究者の一人です。講演の出発点は、世界のGDPが対数軸で見ると長期にわたって指数関数的に伸びてきた、という事実です。AIも同じ曲線の上にあります。過去10年の訓練計算量の伸びは約1,000万倍で、同氏の概算では人間の脳が生涯で行う計算量に近づきつつある。
能力の伸びを示す指標も紹介されています。モデルが50%の成功率で単独で完了できるソフトウェア作業を、人間が同じ作業に要する時間で測る。1年足らずで、その時間幅は約10倍に伸びました。さらに直近7か月で、長く数学者を悩ませてきたエルデシュ問題の一部をモデルが解き始めています。傾向が続けば、2030年の計算能力は2025年の約1万倍になる。
助言の中身
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究への組み込み | AIを日常の研究工程に早く入れ、使い方そのものを研究対象にする |
| テーマの選び方 | 計算資源とモデル能力の向上から継続的に利益を得られる問題を選ぶ |
| キャリアの前提 | 博士、ポスドク、テニュアを当然に安定した道と見なさない |
| 役割の分担 | コード、実行、検証はAIに任せ、問題設定と判断は自分に残す |
最も引用される一文は「執筆は思考である。執筆を外部に委ねるなら、思考も外部に委ねることになる」というものです。効率化のためにAIを使うことと、考えることを手放すことは違う、という警告です。
日本の大学院生にとっての読み方
この講演を「AIで博士の価値がなくなる」と読むのは短絡です。氏が言っているのは、安定性の前提が変わったという話です。日本では博士課程の定員とテニュア枠が既に縮んでおり、指数関数的な変化を待つまでもなく前提は揺らいでいます。
実務的には、3つの問いに答えておくと判断が早くなります。自分の研究テーマは、計算資源が増えると加速するか。検証は自動化できるか。そして、AIに任せられない部分は何か。この3つに答えられないテーマは、AIの進歩に対して守りがありません。
よくある質問
Q. 博士課程に進むのはやめるべきですか。
A. 一律の答えはありません。ただし「博士を取れば安定する」という理由だけで進むのは、根拠が弱くなっています。
Q. どの分野が影響を受けにくいですか。
A. 実験や観測など物理世界との接点がある分野、そして問題設定そのものを問う分野です。計算だけで完結する研究は影響が早く出ます。
編集部の見解
この講演で私が最も実用的だと感じたのは、テーマの選び方の基準です。「計算資源が増えると加速する問題を選べ」という一句は、日本の研究室にもそのまま当てはまります。逆に、人手と根性で回しているテーマは、5年後に誰もやらなくなる可能性があります。
もう一点、執筆と思考の話。AIに下書きをさせて自分で直す運用は効率的ですが、直す力が落ちれば本末転倒です。日記でも論文でも、月に1本は完全に自分で書く。原始的な対策ですが、これが効きます。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「Anthropicの科学者が問う——AGIが3年内に来るなら、博士課程と終身教職の計画に意味はあるのか」(寄稿:36Krフレンズ、2026年10月20日)/2026年6月スタンフォード大学での講演による
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