中国の映像業界で、AIは制作工程を静かに置き換えています。2026年第1四半期に配信されたショートドラマの9割以上がAI生成だったというデータがあります。制作費は実写の約30万元から1〜2万元へ、期間は1か月から2週間へ短縮。ところが現場で起きているのは、効率化ではなく別のことでした。4人の証言をまとめた中国メディアのルポから、構造だけを取り出します。

コストは下がり、単価も下がった
| 項目 | 実写制作 | AI制作 |
|---|---|---|
| 制作費(1本あたり) | 約30万元 | 1〜2万元 |
| 期間 | 約1か月 | 約2週間 |
| 要員 | 数十人規模 | 約10人 |
| 1万回再生あたりの収入 | 30〜100元(昨年) | 5〜10元(現在) |
削減できた費用は制作会社の手元に残りません。その約80%は再生を買うための広告費に回ります。供給が増えたぶん、1再生あたりの単価は昨年の30〜100元から5〜10元へ落ちました。安く作れるようになった結果、安くしか売れなくなったわけです。
会議だけが増えていく
ある制作会社で10年以上プロデューサーを務める小文氏の証言です。会社はかつての大手で、ここ数年は伸び悩んでいました。転機は2026年2月、動画生成モデル「Seedance 2.0」の登場でした。
そこから社内の空気が変わりました。週1回の全社AI勉強会が始まり、議題は具体的な企画や進捗ではなく、業界に出た新技術とバージョン更新の話だけになります。上司の口癖は「時機を逃すな」。昨日のAIニュースを正確に言えた人が優秀で、言えない人は「旧時代の遺物」と呼ばれる。プロジェクトの話は、誰もしなくなりました。
上司自身は熱心で、自分のノートPCを持って各席を回り、覚えたてのツールをその場でインストールさせ、使い方を見せろと要求しました。会議室は静かで、聞こえるのは上司の声だけ。ある人は取り繕って画面を開き、ある人は自分の進捗報告に目を落として黙っていました。
「AI玩具」という仕事
さらに奇妙だったのは、AIによる脚本評価システムの導入です。プラットフォームの評価方法を模して企画を採点する仕組みで、小文氏が1年以上温めていた企画を通してみると、点数は悪くありませんでした。上司は喜んで次の推進計画を尋ねました。
「以前なら企画が動いて嬉しかったはずなのに、その日は画面の点数を見ていて、ぼうっとしました。10年かけて溜めた判断力が、ツールが出した数字より軽いのか、と」。証言はそこで止まります。
時間が経つと、現場は生き残りの方法を編み出します。見た目は先進的で、実際の工程には乗らない機能を作り、上司の突然の要求をかわすのです。たとえば「IP開発アシスタント」。ネット小説の原文をAIに投げ、段落ごとに要約させ、どの類型のドラマに向くかを出力させます。それらしい提案は出ますが、業界の人間が見れば、AIが作品を読んでいないことはすぐ分かります。魅力のある部分が、要約の過程で消えているからです。
それでも上司はこの結論を信じ、部門のIP開発の主要な参考資料として扱います。現場はこうした成果物を「玩具をこねる」と呼んでいます。役に立つかどうかではなく、価値がありそうに見えて、報告が成り立てばいい。
別の3人はどこへ行ったか
ルポには他の証言も並びます。ある人は映像企画から大規模モデル企業へ移り、自分のカメラワークの経験を1文ずつAIに翻訳する仕事に就きました。ある人の最初の仕事は、開いた瞬間に粗が見える画面のコードを書くことでした。別の人は収支を計算し、70本以上の中で回収できたのは1本だけだと気づいています。
4人の立場は違いますが、出会った出来事は同じです。AIは会社に入った。プロジェクトは入ってこなかった。
よくある質問
Q. AI制作で本当にコストは下がるのですか。
A. 制作費は下がります。ただし流通の単価も同時に下がるため、利益が増えるかは別の話です。上の表のように、1再生あたりの収入は数分の1になっています。
Q. 日本の制作現場にも同じことは起きますか。
A. すでに起きています。生成ツールの導入そのものより、導入後に「成果物が工程に乗るか」を測る仕組みがあるかどうかで差が出ます。
編集部の見解
このルポの核心は、AIの性能評価ではありません。誰も使わない機能が、報告のために作られ続けるという組織の病理です。そしてこれは、中国に限った話でもありません。導入研修をした、全社ライセンスを配った、という事実だけが積み上がり、現場では使われない。その差を埋めるのは、技術ではなく検収の設計です。
具体的には、AIで作った成果物を「誰が、いつ、どの工程で使うか」を先に決めておく。決まらないなら作らない。この一点を運用に落とせるかどうかで、同じツールが武器にも玩具にもなります。日本の制作会社がAI導入でつまずくとしたら、原因はここだろうと考えています。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「映像プロデューサー10年——いまは毎日社長と“AIおもちゃ”を作る日々」(寄稿:顕微故事、2026年10月20日)
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