10月19日、香港上場の剤泰科技(METiS、7666.HK)とイーライリリーは、組織特異的なLNP送達技術で最大11億ドルの戦略提携を結ぶと発表しました。中国の生成AI-LNPプラットフォームが海外の大型案件を取ったのは初めてです。製薬大手が買ったのは完成した薬ではなく、薬を細胞まで運ぶ仕組みそのものでした。

11億ドルは、何に対して払われるのか
過去の大型契約の多くは、臨床段階に入った分子や、すでに承認された薬が対象でした。今回は臨床前のプラットフォームに、前払いとマイルストーンが置かれます。
リリーの投資は、この5年で層をなしています。
| 層 | 相手 | 規模 |
|---|---|---|
| 計算基盤 | NVIDIA(LillyPod、AI Co-Innovation Lab) | 5年で最大10億ドル |
| バイオ医薬の設計 | Chai Discovery | 金額は非公表 |
| ゲノム編集ツール | Profluent | マイルストーン最大22.5億ドル |
| 体内遺伝子送達 | Kelonia Therapeutics | 買収最大70億ドル |
| 送達(LNP) | 剤泰科技 | 最大11億ドル |
計算基盤から送達まで、層ごとに相手を変えている点が特徴です。今回そこに送達が加わりました。
リリーのCIO、ディオゴ・ラウ氏は、製造・探索・送達・臨床の全工程をAIで覆うと説明しています。送達は職人芸ではなく、AIで設計できる工学的な問題だという整理です。
なぜ送達が最後の空白だったのか
低分子の時代、送達は大きな問題ではありませんでした。経口か注射かで、薬は自分で目的の場所に分布します。
核酸医薬、ゲノム編集、mRNA、体内細胞治療になると事情が変わります。siRNAもmRNAもCRISPRの構成要素も、分子量が大きく、電荷を持ち、分解されやすい。送達系なしでは細胞に入れません。
LNPはこの問題を部分的に解きました。ただし従来のLNPが得意なのは、肝臓への集積までです。肺、脾臓、腫瘍、あるいは組織内の特定の細胞種へと選択性を上げようとすると、探索すべき化学空間が桁違いに広がります。人手のスクリーニングでは追いつかない領域です。
1,000万件の脂質構造をどう使うか
剤泰のNanoForgeは、1,000万種を超える脂質構造と10万件の実験データを持ちます。その上に、脂質を生成するAiLNP、タンパク質と抗体のAiProtein、核酸配列のAiRNA、低分子製剤のAiTEMが載ります。
AiLNPの違いは、既知の構造を選別するのではなく、脂質そのものを言語モデルのように生成する点にあります。1日に数千の候補を作り、予測モデルで数十に絞り、湿実験で確かめ、結果をデータとして戻す。この乾湿の閉ループが回るほど、候補の精度が上がります。
外部での検証も進んでいます。8月にはAiTEMが恒瑞医薬に導入され、AI支援の製剤新薬MTS-004では、臨床前の製剤最適化を業界平均の1〜2年から3か月に縮めたとされています。
日本の創薬にとって何が変わるか
日本の製薬企業は、送達技術を内製するか国内のDDS企業に委託するのが一般的でした。肝外送達は探索空間が広く、内製は現実的ではありません。
日本企業が受け手側に立つ場合、どの標的を先に押さえるか、どのデータを渡すかを先に決めておかないと、優先権の意味が薄くなります。技術面接では、脂質の構造をどこまで自前で持っているか、実験データの件数と再現性、乾湿ループが1週間で何回転するかの3点を問うことになります。
よくある質問
Q. 11億ドルは一度に支払われるのですか。
A. 契約総額の上限が11億ドルで、前払いとマイルストーンの内訳は公表されていません。研究の進展に応じた分割払いです。
Q. LNPとは何ですか。
A. 脂質ナノ粒子のことです。mRNAやsiRNAを包み、細胞の中まで運ぶカプセルとして使われます。COVID-19のmRNAワクチンで実用化が進みました。
Q. 日本企業にも関係がありますか。
A. 肝外送達の調達先が一つ増える意味があります。核酸医薬と体内遺伝子治療を手がける企業は、初期段階の比較対象として把握しておく価値があります。
編集部の見解
この取引で注目すべきは金額の大きさではなく、支払いの対象が「能力」に移った点です。臨床データのないプラットフォームに、前払いと優先権が付く。製薬大手の調達部門が、パイプラインの買い手から、研究開発基盤の買い手に変わりつつあることを示しています。
日本の課題は、同じ土俵でプラットフォームを持つことよりも、プラットフォームを評価して買える人材を社内に置くことです。脂質の構造、実験データの粒度、乾湿ループの回転数。この3点を技術面接で問えるかどうかで、契約の質は変わります。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「11億ドル——中国の生成AI創薬LNP送達プラットフォーム初の海外大型契約、礼来の買い方の論理が変わった」(寄稿:Gelonghui、2026年10月20日)
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